薪ストーブのあるリビングの写真
薪ストーブのあるリビングの写真

光カーテンのある家

Matsumoto, Nagano, JP 2015

既存住宅のリノベーションとともに、小さな平屋を増築。光が降り注ぐリビング・ダイニングとしているのは、増築ならではの理由があります。既存住宅と切り離し増築ならではの空間としています。

夫婦二人の生活に戻り、将来を考える

場所は長野県松本市。ご夫婦でお住まいです。広い敷地に築25年ほどの木造3階建てのお住まいと築約40年の2階建ての木造アパートがありました。木造アパートは既に使われておらず、物置となっていました。設計のご依頼をいただいたきっかけは、お子さん達が独立して今後の生活を考えるタイミングであるとのことでした。特に、1階で平屋的に生活したいというのが1番の要望でした。その時点では、いくつかの選択肢が考えられました。全て更地にして小さな平屋に建て替える。既存住宅を改修する。既存住宅を利用して1階を増築する。既存アパートを住宅にリノベーションする。大きく4通りあり、我々で調査と検討を行いました。木造アパートをリノベーションすることは出来るが、住宅にするにはやや大きすぎ、且つ耐震補強が必須になるため改修費用が過大になる。次に新築案ですが、同時にこのアパートに入っている荷物を整理したとしても、かなりの量になる。ほどよい大きさの”小さな”平屋住宅というのは難しいだろうと予想できました。そこで既存住宅の改修か増築となりました。改修するには間仕切りを改造することになります。しかし、既存住宅はツーバイフォーで建てられているため、建物を気軽に改造することが出来ない。このように、一つ一つ検討して既存住宅への増築の方針を決め、今後のお二人の生活を支える住宅のあり方を考えていきました。また、この機会に宅地全体の将来利用計画(分割可能な)も含めて検討しながら、設計を進めています。

増築という選択

増築のメリットは、この空間を増やしたい!と思う部分にリソースを集中出来ることです。今回は既存住宅一階に風呂トイレ洗面があったため、それらを改修して使っていくことにして無駄なコスト増を避け、リビングダイニングとキッチン及びパントリーを増築しています。特に既存キッチンでは足りなかった収納と作業スペースの拡充したキッチン作業スペース。また、本格的な料理に必要な性能と、無駄な部品がない(壊れるところが少ない)こと、手入れの簡易さ等の要望を満たす既製のキッチン(EIDAI)としています。独立させていることで、質実剛健な料理部屋が出来上がっています。また、リビングダイニングは面積よりも奥行きを重視して設計しました。リビングとダイニングの機能が自然な距離感を保つためです。空間のプロポーションは非常に大切だと考えています。

柔らかな光で包み込む

増築だからこそ出来る設計もあります。特に今回のケースは、子育てが一段落しこれまでと違った生活を送るための増築であることと、来訪者は一旦、既存建物に上がり、既存内部を通って増築部分にアプローチすることがデザインの基となっています。前者はそこで過ごす時間の変化、後者は空間の変化で現そうと考えました。具体的には増築部分の屋根にスリット状の細長いトップライトを設えています。その柔らかな光で包まれた空間は、これまでの既存住宅とは異なるリゆったりした時間を与えてくれます。そして、住宅に来訪した方は、そのトップライト下を通過すると、全く異なる空間体験を感じるように意図しています。その変化の基となっているトップライトに視線を上げると、天井の緩やかなカーブと荒いタイル貼りの壁との拮抗した対比が2つの空間を際立たせるように意図しました。トップライトから落ちる光をカーテンに見立て、その光により、こちらとあちらを作り出す演出をしています。

薪ストーブとの緩やかな時間の流れ

リビングダイニングには薪ストーブを据えています。冬期に冷え込む松本では、とても威力を発揮します。機能的なでありながら、薪の火が生活の中にあることは、それだけでとても贅沢な時間が流れます。薪ストーブの暖房を効果的にするためには、ふく射暖房効果の高い壁の材料選びもポイントです。今回はリビングダイニングの壁に、熱容量の高いタイル素材で相乗効果を狙っています。

既存建物の活用はとて有効な手段

既存建物を利用して増築することに関しては、既存建物の状態や敷地の状況、また法的な問題等、クリアしなければならない条件がいくつもあります。そのため、一般的な方法ではないようです。しかし、古い建物の良さや特徴を活かしつつ、新しい生活を創造するのは、とても豊かな体験です。条件が厳しくなる分、目的をハッキリさせて、実現するためのアイディアをたくさん盛り込む必要があります。既存部分も改修することで、見た目は全く新しいリニューアルした空間になりますが、既存建物を利用することで、その建物と土地に流れていた時間が途切れず続きます。この時間の連続は、人の生活においてどんな凝ったデザインや、贅沢な材料をもってしても変えられないかけがえのないものです。

外観
手前にある既存住宅の奥に見える黒い平屋建物が、今回増築した建物です。玄関機能は従来通り既存住宅が担う。リビングダイニング、キッチン、パントリーを増築。今回増築した平屋部分は、屋根の軒先が低く張り出し低く平らな安定感のあるボリュームとし、ややずんぐりとした既存建物と対比的に造形し敷地内にリズムを作り出している。
キッチン
料理とお菓子作りに専念する空間をストイックに作りました。リビングダイニング側から見える壁だけ赤いモザイクタイルを貼っていますが、それ以外は装飾や、ギミックは一切無し。質実剛健で作業のし易い横方向の動きにこだわってつくり、長く使い続けられるキッチンを目指しました。
リビング
屋根には柔らかな光を注ぎ落とすトップライトが設置されています。光はタイル張りの壁に綺麗な陰影を描きます。また、緩やかなカーブを描く天井を舐めるように回り込む光はリビング・ダイニング全体を柔らかな光で包み込みます。
薪ストーブ
既存住宅になかった機能として薪ストーブを設置しています。寒さの厳しい信州の住宅には薪ストーブの暖かさは格別なものです。昼はトップライトから降り注ぐ光を楽しみ、夜は炎の揺らめきを楽しめる贅沢な時間が流れます。
廊下
既存住宅からダイニングを望む写真。手前の既存建物とは少しだけ角度を付けて増築部分がつながっています。廊下に生まれる小さな角度でも奥行き感が生まれます。この先に何があるのか期待感を高める演出です。

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