リビング
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取手の民家

Toride, Ibaraki, JP 2015

民家を二世帯住宅に改修しています。民家が持つおおらかさを失わないように、でも、多様な家族の生活スタイルを包み込むことが出来る住宅にしています。耐震性能と断熱性能を上げることも重要な改修工事でした。

共有部分を可能な限り大きくおおらかにした二世帯住宅へ

田園風景が広がる茨城県取手市にある民家の改修です。築年数は45年程度。敷地内には納屋や農機具庫などがある農家の造りとなっています。ここ最近はご両親だけでこの大きな建物に住まわれていました。息子さんご夫婦が同居される機会に建物をしっかり直そうということで計画が始まりました。既存建物は、いわゆる田の字型プラン。和室が建物中央に4室集まり、その周りを縁側が囲むという間取りでした。建築計画的には、職住一体で農業が生活のリズムを造る生活で且つ、法事等の行事を大人数で執り行う必要があればとても合理的でフレキシブルな間取りなのです。民家は機能が固定化されておらずとてもおおらかな建物で魅力的ですが、反面、生活時間の異なる多様な生活者が共に住まうには不便な部分が多いです。今回、お施主様ご家族のお話をお伺いしていると、生活時間などは世帯毎に異なりそれぞれの生活があるのですが、できる限り緩やかな2世帯住宅にしたいという意見も聞かれました。そこで、改修の方向性としては、民家のおおらかさを残しつつ、2世帯住宅の快適さを少し加えるという住宅にすることに決めました。

状況に応じた耐震補強

間取りの検討と同時に、耐震補強についても当初から話題に上っていました。基礎など大きなクラックもなく継続利用することに問題はないようでした。そこで、既存壁に設置可能な筋交いを増やすなどとともに、新しい間取りに合わせて一部基礎を増設したほか、外周部の土壁はそのままに屋内側に基礎を増し打ちしそれらの壁に筋交いを増設しています。元の構造は大きく変更せずに構造設計の専門家と協働しながら適切な場所に筋交いの増設を行い耐震補強を施しました。

どのように性能を上げるか

構造耐力の増強だけでなく、生活の快適性を左右する温熱環境に関しても向上させています。開放的であり快適でもあるという住まいを目指して断熱補強を行いました。既存建物は民家らしく、風通しの良い夏仕様です。逆に言うと冬は無断熱で、耐えるしかない、あるいは、ばんばん石油を燃やすという仕様です。今回は夏の開放性は確保しつつ、冬の温熱環境も獲得するために断熱材の仕様は適材適所選んでいきました。耐震補強をする為に内部造作を壊してしまうので、ほぼ新築と同じように断熱施工をすることが出来ます。適宜材料を組み合わせることで改修と新築の差はありません。温熱環境を快適にする改修工事は可能なのです。

固定概念と模型とCG

私は建物の改修に関して考えるとき新築と同じ感覚で考えます。既存建物を立体的な敷地であるととらえれば、それほど新築と改修の違いはありません。むしろ与条件が厳しい分改修の方が計画案の方向性が鮮明になって提案が考えやすいことさえあります。しかし、長年住まわれているお施主様の場合は、この建物はこう言った建物だという固定概念に縛られます。お施主様には、なるべくこれまでと違う視点で建物を見ていただきたいので、新築設計の提案と同様に模型とCGを多用してご説明しています。既存建物を一旦模型にすると、長年住まわれている年長のお客様でも、建物を客観的に見ることができます。お打ち合わせしていても新しい間取りの提案についてご理解いただけることが多いと実感しています。

古材や傷を見せる、見せない

最終的な仕上げに関しても、改修では、意見が分かれることも多々あります。古い構造材の傷を改修ならではの味として見せるのか見せないのか問題があります。これは程度にもよるため、現場で一つ一つ確認していく必要があります。そういったことは全くNGな場合もありますし、テイストとして大好きという方もいらっしゃいます。家族内でも意見の分かれるところなので手間の掛かる確認作業になりますが、現場の様子を説明しながら、これはどうするあれはどうするという作業が出来るのも改修ならではの楽しい風景の1つです。

思い通りには行きません

特に居住している既存建物を改修する際は、建物の既存構造や既存設備などを全て確認してから設計することが出来ません。壊してみないと判らない箇所がどうしても発生してきます。構造においては、抜ける柱、抜けない柱などの判断についてコストとリスクのバランスを考慮して検討していきます。リスクについては、建物のゆがみや雨漏りに影響する可能性をご説明していきます。コストを掛けて補強などして可能な場合もありますし、要の構造体となると不可能なケースもあります。この計画でも希望的観測では抜きたいと考えていた柱が抜けず、お施主様にとってはご希望に100%添えなかった部分もありました。無理してご希望に添いたい気持ちはあるのですが、構造的なリスクを考え最終判断しました。なかなか思い通りに行かないということも改修には発生します。そのあたりの予測を出来るだけ事前に行うためにも、改修設計は新築設計以上に時間が掛かることがあります。

既存建物は立体的な敷地

先でも書きましたが、私は改修であっても、新築同様の考え方で設計を一から組み立て直します。全く新しい建築をつくることを目指しています。耐震性能や温熱環境もさることながら、間取りにおいて建物は生まれ変わります。更地に新しい建築が立ち上がり新しい生活がスタートすることをお手伝いすることもとても晴れやかでやりがいのある仕事ですが、既存建物を利用しながら新しい生活に合う建物を提案することは、それ以上に意味のあることだと考えています。既存建物が継続してきた時間を繋ぎながら、違う方向に向けて過去からの時間を継続させる。そんな感覚があります。これはご家族の物語を継続することでもありますし、街の風景の継続でもあると思っています。

おおらかな民家

間取りや造りがおおらかな民家は、現代の在来木造住宅とは明らかに異なる建築です。機能に特化した空間を組み合わせた合理的な建築とは異なります。様々な物を受け入れてくれるこのおおらかさを失わないような住宅にすることを目指しました。また、これまでの時間を断ち切るような改修にもしたくありませんでした。夏には和室とリビングを続き間にして開放的な住宅になり、民家のおおらかさを失わないようにしています。しっかりとした性能を確保することで冬でも快適な住環境を確保しました。キッチン・トイレ・洗面・風呂関係の間取りは、少々無駄があるかなというくらいに余裕を持たせてあります。これは、高齢化や家族の増減に対してもできる限りこの住宅で時間を過ごしていただきたいという願いからです。あらゆる物を包み込んでしまう民家の魅力を継続させて既存民家を二世帯住宅に改修しました。

リビング・ダイニング・和室
民家が持っている風通しの良さ、開放性、一体感を維持する設計を進めていきました。縁側から抜ける風がリビング、ダイニングにも滞りなく回り込むようにしています。また、視線が抜けるエリアを随所にちりばめ、民家の持つ開放性を確保するように計画してもいます。それぞれの世帯のプライベート性は確保しつつ開放的で一体的なゾーンを用意することで、もともとの建物が持つおおらかさが損なわれないようにしています。
リビング
座の空間となる和室と、着席の空間となるリビングとの空間の重心の高さを調整するためにローボードや、低天井を一部に作ること、照明器具の高さや、ふく射暖房器具の背の高さを抑えるなどの工夫を凝らしています。その効果で、リビングと和室とが自然な形で繋がります。更に、間仕切り建具の障子を全面引込にすることで、既存建物よりもより空間に一体感が生まれています。
和室・縁側
既存建物の縁側の角には壁がありましたが、取り払いました。更に全面引込扉とすることで高い開放性を確保しました。和室部分は既存天井・建具、欄間等を使用して旧建物の雰囲気を意図的に残しています。全く新しくすることも素晴らしいのですが、一部古いまま残すことで、建物が生き続けている証になるのではないかと考えています。古さを活かすことが出来るのは改修ならではの価値あるインテリアだと考えています。
リビング詳細 古い柱
リビング柱詳細。古い柱の有機的なプロポーションを左官壁により強調しています。欠損部分には埋め木をしていますがそれとなくその補修箇所が判る仕上げとなっています。そこに新しい建具の造作材がぶつかることで、ふるさと新しさの力の拮抗が見えてきます。こういったダイナミックな材料の雰囲気は改修でしがか得られません。
玄関
玄関の壁の一部には、縦格子の木の板が張り付けてあります。その格子が玄関土間まで延長して緩いカーブを描いて伸びてきています。この格子の延長部分には三日月型の飾り棚があり、その奥はシュークロゼットになっています。二世帯分の下駄箱となるとかなりのボリュームが必要で小さな空間である玄関には威圧的な箱になってしまいますが、今回はこのように格子で仕切り風通しの良い靴入れを設えました。
外観 夜景
外から見る姿はそのままに、内部空間を中心に改修していきました。写真中央に見えるリビング・ダイニングは建物の奥行きいっぱいに空間を広げているため開放的な空間となっています。この空間を中心に二世帯の共用部の充実をはかり、左右それぞれに世帯毎の寝室を設えました。新しい生活への対応と、民家のおおらかさを損なわない改修を目指して設計を進めていきました。

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