外観
外観

あなたとわたしの家

Iizuna Kogen, Nagano, JP 2011

築45年の山小屋を住宅にリノベーション。既存建物のポテンシャルを活かしながら家族の関係と距離感に重点を置いたデザインとしています。また、標高1100m気温-15度の環境の中で快適に過ごすための機能性も合わせて兼ね備えるよう改修した住宅。

お化け屋敷と呼ばれた廃屋

これは築約45年の山小屋を住宅にリノベーションしています。改修前には既に10年以上使われておらず、近所の子どもには、お化け屋敷と囁かれていたほどです。場所は長野県長野市にある飯綱高原の国立公園内です。標高約1,100m、冬には日常的にマイナス15度まで冷え込みます。積雪は1.5m程度、霧が多く通年で湿度が高い場所です。屋根の一部には穴が開き、煙突は崩れ、床はぼろぼろでした。この環境の中で、この状態から、この廃屋を住宅として生き返らせることがこの計画のミッションでした。

剥き出しの構造

改修前の建物を調査したところ、特徴といくつかの問題点が判りました。まず、とても単純な構造でした。簡単に説明すると、コンクリート製の壁の上に木造の屋根が載っているだけでした。その屋根を支える材料は16本。残念ながら1本だけ腐っていました。しかし補強が出来そうです。この建物は、断熱や仕上げがなく、構造体が剥き出しになっていたため目視で構造体の状態が確認出来ました。これは改修前の調査としては助かります。工事が始まってから、あとで判明すると、工事費の予測が立てにくいのです。また長年使われず、更に湿度の高い地域では、木造は腐りやすいのですが、この建物の場合構造材が剥き出しになっていたおかげでそのリスクにさらされませんでした。一本腐っていたのは、屋根に穴が開いていた部分で原因がハッキリしていましたので、対策も簡単です。

特徴的な形

改修デザインをする際、どのような建物にしようか考える上で、既存建物の個性から発想を得ることが多いです。この建物はその良い例となっています。先に書いた剥き出しの構造体が、屋根型に連続して並んでいます。美しさを感じました。このキャラクターを活かした案にしていこうと考え始めました。とはいっても小さな建物なのでそれほど多くの要素はありません。今回一番大きく改造したのは、2階の床の位置です。既存建物はこの建物の個性が活かされていないと感じたので、床と吹き抜けの位置関係を90度回転しました。このことで連続した構造体に呼応する奥行き感のある空間としています。

性能アップの方法

厳しい寒さに耐える為に新たに断熱材を付加しています。一番簡単な方法は、屋根や壁のインテリア側に断熱材を入れ、新しい仕上げを施すことが簡易で安価ですが、古い木材が全て隠れてしまいます。この住宅の個性を活かしたかったので、今回は古い屋根の上に新しい屋根を載せています。その古い屋根と新しい屋根との間に適度な隙間を用意し断熱材を充填しています。壁と床は内側に断熱材を吹き付け熱の逃げ場をなくしています。断熱材は現場発泡ウレタン吹付です。メリットは、隙間なく充填出来ることにあります。今回のように古い建物の隙間をしっかりと埋めることが可能です。デメリットは、火災時の有毒ガスと、解体時の分別が出来ないため。木材等の再利用が出来ません。断熱性能を上げているので、家全体の暖房は薪ストーブ一台でまかなっています。

川と橋のイメージ

低い屋根が特徴のこの住宅は、深い雪に包まれた際、雪に埋もれます。私はこの住宅に、小さな小川を重ね合わせてデザインしています。泉から流れ落ちる小さなせせらぎは、雪に隠されてもその下でその流れ続けています。この小さな家の家族も雪に埋もれてもこの地で生活を続けていきます。その生命力を小川に重ねたのです。リビング、ストーブ、玄関、キッチンと奥行きのあるスペースを川に喩えています。その“川”を挟んであちらとこちらという感覚を演出し、心理的な距離感を作り出そうとしています。また、2階は吊り橋をイメージし、“川”と“橋”という距離感も加えています。非常に小さなスペースですが、このように川と橋をモチーフにして、”川”の奥行き感、両岸の”あちらとこちら”を作りだし、距離感を演出し、広がりのある空間を実現しています。
 

リノベーションの楽しさ

ほぼ廃屋が性能をアップして蘇りました。しかし、完全リニューアルするのではなく、“味”として残したい部分はのこしています。古い傷、釘あとや、塗装のムラなどそのままにしています。それらは、テイストと呼ばれるような表面的な味わいだけでなく、新築では絶対にあり得ないおおらかさを住人に与えてくれます。生活にはノイズがあります、食べ物を落とすことも、子どものいたずらもあります、気に入った写真を壁にぺたっと貼りたくもなります。そういった生活の振れ幅を上手くリノベーションした建物はおおらかに包摂してくれます。これこそ正にリノベーションの楽しさです。

外観
リノベーション後の外観。既存建物の外観的特長を活かすため外壁の立ち上がりと、屋根を連続的に平葺きで仕上げています。要素を減らすことと、仕上げの構成を変化させることで、小さなモノコック感を演出して建物に愛嬌を付加するデザインとしました。仕上げ同様に、断熱材もシームレスに施すことにより、標高約1100m・気温-15度・積雪約1.5mの環境下においても充分な生活環境を作り出しています。
内観
リノベーション後の内観。2階ロフトの床の位置を変更しています。空間が長手方向に流れるように床を張り直し、吹抜のプロポーションを変えるとともに、連続する構造体がリズミカルに現れてくることで、空間の奥行きを感覚的に広げています。建物の特長を活かすリノベーション例です。
夜景外観
雪深い山の中で、1つの家族が寄り添って暮らす小住宅は、寒々しい光景の中に、暖かみのある人の営みが息づかいが現れるようなイメージでデザインしています。1階も2階も遮る壁のないワンボックス空間となっています。そのため冬の暖房は薪ストーブ(カラマツストーブ)一台で充分まかなえます。
夜景外観
唐松林の中に建つこの住宅の玄関は、窓も兼ねているので透明ガラスが入っています。この窓兼玄関扉は、真東を向いています。早朝、一筋の朝陽が家の中を明るくします。
リノベーション前の外観
リノベーション前の山小屋の外観。煙突は崩れ、屋根に一部穴が開き、汚れが付着している状態。約10年ほど使われないまま放置されていたとのこと。石が貼ってある部分が鉄筋コンクリート製、その上の赤い屋根部分が木造という構造。
リノベーション前の内観
リノベーション前の内観。山小屋風で構造が剥き出しのシンプルなインテリアでした。16本ある梁の中で1本だけ腐ってしまった材を補強するだけで他はそのまま利用しています。構造体が仕上げ材料によって隠されていないことは、事前に目視確認が出来るためリノベーションする際、コストの大きな比重を占める構造体に関するリスクが減ります。

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