ダイニング
ダイニング

板の家

Tokyo, JP 2007

一見するととてもクールな表情を持つ建物、でもその裏にはとても熱い想いを込めて丹念に創り上げた住宅とオフィス2つの機能を兼ねた建築です。外壁は見ての通りのコンクリート剥き出しの建物ですが、住宅部分にはお施主様の家族への熱いメッセージを込めて造り上げていった建物となっています。

住宅+オフィス+倉庫をコンクリート造とする

緩やかな丘陵が続く東京都大田区東急池上線沿線の住宅街に建てたオフィス併用住宅です。当初は木造で検討していましたが、規模と形態と機能と法規制を加味し、建設会社の概算見積もりを比較検討し鉄筋コンクリートの建物となりました。検討には時間を要し、コストについても当初より増額しましたが、メリット・デメリットを比較検討し、お施主様、設計者、建設会社と三者の合点を見つけることが出来ました。

家の象徴

構造と同時に家の間取りについても検討を何度も繰り返していきました。建物全体の要望をまとめると オフィスの確保、倉庫の確保、住宅部分は大きなワンルーム空間とし吹抜もほしい、というものでした。オフィスと倉庫の床面積を確保すると残りが住宅部分の床面積となります。単純な平らな床で建物を造ると住宅部分が小さくなることと、高さ制限の問題で吹抜はあきらめなければなりませんでした。しかし、基礎の一部を半地下空間とすることと床レベルを細かく調整していくことで、建物全体をスキップフロア状にし、最上階の住宅では吹抜ではないが、吹抜のような高天井空間を作ることができました。そんな細かな調整を行いながら打合せを進めていく会話の中で、お施主さんから「家の象徴がほしいな」というようなことを投げかけられました。家の象徴といえば大黒柱、しかしこの時点で既にコンクリートでつくることを決めていたので大黒柱はいりません。フェイクの大黒柱を建てたのでは、家の象徴が虚像なんてことになってしまいそれはもちろんNG。そこで思いついたのが家の中をめぐる板です。

めぐる板

この板は、玄関では靴脱ぎベンチとなります。床の段差に合わせて板も登りその段差を利用して下駄箱となり、そして子どもの勉強机となり、直角に曲がったところで、ご主人さんの読書ベンチに変わり、再び床の段差とともに上昇するとそこが本棚となり、次にキッチンの作業台となります。その先で直角に曲がりダイニングテーブルとなって板が切れます。切れた先には、ベランダがあり白いスクリーンがめぐる板の行き先を受け止めてくれる。そんなイメージスケッチを描いてお施主さんに見せたところ、これで行こう!となったのです。この板は家事、食事、余暇、勉強等家族の生活に常に密着しています。これこそこの家族の象徴と成り得るに相応しいという思いでデザインしました。

構造も板

この建物は、構造形式についても工夫も凝らしています。通常のコンクリートの建物は柱と梁と床で造られているのですが、この建物は壁と床のみで構成しています。その理由は、小さな建物で太い柱がインテリア側に飛び出すと、家具や窓の納まりが悪いことと、梁が低く垂れ下がると、今回のように限られた高さを有効利用して床を重ねる計画には向かない為です。しかし、複雑な建物形状をしているため、建物全体を3次元モデルで解析し構造計算を行いました。このように複雑な形状や特殊な要望に応えるために、構造事務所との協働を大切に考えて仕事を進めています。

外観も板の集まり

この建物は、住宅街にあります。必要床面積を考慮すると、建物は高さ制限に合わせて高さ約10mまで建てることになりました。コンクリートの質感を活かした打放し仕上げにしたこともあり、建物のボリュームが相当な迫力となって町並みに迫ってきます。これを少しでも軽減するためにリズミカルに板が組み合わされたファサードを提案しています。壁に窓が開いているのではなく、壁は壁、開口部は開口部と大胆に分けて建物の外観を構成しています。そうすることで外観も板の集合体となり、内部をめぐる板、構造も板、外観も板というように建物全体に一貫したテーマで括りまとめています。

外部との関わり

建物全体に開放的な大型開口部がたくさんあるにもかかわらず、住宅部分の開口部は光を取り込むことに集中し、外部からの視線を遮っています。カーテンなどはほぼ使わずに生活出来るようになっています。大きな床面積が確保出来ない分、部屋を小分けにせずなるべく大きな空間を確保しました。そして常に外部の空やベランダへ視線が抜けるように開口部を配置しています。しかし、街に対して背中を向けた住宅にならないようにベランダ部分を大胆に外部に開き、スクリーンを配し、屋外カーテンで愛嬌を付加し可能な限り街と繋がるファサードにしています。

クールだけど熱い建築

一見するとコンクリートが剥き出しになり、シンプルな外観デザインとしているので、とてもクールな建物に見えますが、家族が過ごす空間についてご家族ならではの象徴を作り出そうとお施主様と必死で考えて結論を導いたとても熱い情熱的な建築なのです。限られた建築スペースの中にオフィス+住宅+倉庫+インナーガレージをテトリスのように複雑に組み合わせながら、空間を作った理由は、お施主様の熱がこちらにも飛び火して要望をどうしても実現したい思いが設計の推進力となりプロジェクトが進んでいったためです。そして、クールだけど熱いオフィス併用住宅が出来上がりました。

外観
建物の外観は、コンクリートの箱がリズミカルに組み合わされているようなデザインにしています。住宅地の中で打放しのコンクリートが威圧的にならないようにするためです。一見重厚な箱の組み合わせですが、その隙間から外部カーテンがひらめき建物に愛嬌を与えています。
めぐる板のイメージスケッチ
住宅の中をめぐる板は、玄関では靴脱ぎベンチとなります。床の段差に合わせて板も登りその段差を利用して下駄箱となり、そして子どもの勉強机となり、直角に曲がったところで、ご主人さんの読書ベンチに変わり、再び床の段差とともに上昇するとそこが本棚となり、次にキッチンの作業台となります。その先で直角に曲がりダイニングテーブルとなるのです。一枚の板が家族の生活に密着しています。
玄関
ここから板が始まります。垂直に取り付けた手摺の先端には照明が仕掛けてあります。その先端が入り込む四角い穴はトップライトになっておりテラスから一筋の光を玄関に落としてくれます。
住宅内観
居間からスタディースペースと読書ベンチを見ているところです。左下の玄関からいたが続いて右上のキッチンへ板が続いているのが判ります。窓は上部ハイサイドライトから光と風を取り込みます。周囲から覗かれない位置に窓があるので、空の見える開放的な生活が可能です。
ダイニング
ダイニングは、向かって右にあるキッチンで作業する人と視線の高さが同じになる工夫がしてあります。テレビを囲う収納には空調、物入れなどテーブルと、窓のデザインに合わせて設えたものです。広い空間ではないので、ダイニングテーブルをコンクリートの壁からキャンチレバーで持ち上げており脚を無くすことで空間を有効活用しています。
テラス
ダイニングテーブルの先にはこのテラスが広がっています。白い壁の向こうは集合住宅があり目隠しの役割を担っていると同時に、夜になるとこの壁が屋外スクリーンになります。趣味と実益を兼ねた壁となっています。壁の下部を少しだけ浮かせることで、インテリア側から見ても軽快さを演出し、外部から見ても外観のアクセントとなるように工夫しています。

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