いいやまのいえ
Iiyama, Nagano, JP 2015
敷地への愛着を反映した住宅です。思い入れのある地域に見つけた土地は素敵な雑木林を望むことの出来る土地でした。冬には積雪2.5mにもなる豪雪地でもあります。その風景が生活空間の中に織り込まれるような住宅にしたいとの思いで設計しました。
始まりは土地との出会い
場所は長野県飯山市、県の中でも北部に位置する町です。冬季は日本海側の雪雲の影響が大きく、大変な積雪量(2.5m程度)となる場所です。家作りのお打ち合わせをはじめた当初はご夫婦お二人とお話をしていました。入居する際には、2歳の可愛らしい娘さんとご一緒でした。じっくり時間をかけて設計を進めていくなかで、お子さまの誕生という嬉しい話題に立ち会えたのは、設計者としても嬉しかったですし住宅の方向性もより明確になっていきました。この住宅では、お施主様が惚れ込んだ敷地と出会いが大きな原動力となっています。ご夫婦が10代の頃慣れ親しんだ地域に雑木林を望むことが出来る素敵な土地を見つけそこに住みたいのだと言う強い意思を当初から強く感じて設計を進めていきました。
目指すべきものはハッキリとしていたが紆余曲折
設計のスタートは、順調に進みました。目指すべき方向性、お施主さんの熱意、その熱意に押されて設計案を提案しました。しかし、決定打がなかなか見つけられませんでした。主な要因としては、雪に対する屋根形状とコストについてでした。実はこの建物の屋根はお施主さまの義父さまが葺かれました。職人であるお父さまと意見の交換をしながら設計を進めていき時間を掛けて合意点を見つけていく作業をしました。また、半屋外空間と室内空間の面積バランスについてコストとの釣り合いを考慮しながら設計を進め何度も見直しを行いながら計画を進めました。そのため時間は掛かりましたが、お施主様、施工者、設計者三者の合点を見つけることが出来ました。
留まらない視線・空間の流れ
先にも書いたとおり、お施主様ご夫婦の思いの詰まった土地のポテンシャルを活かす建物にしたいと考えていました。この土地の風景をできる限り自然に、生活の中に織り込ませることに注意を払いました。この住宅の主要な窓は壁の中に開けた窓というより、壁の一部を取り払ってガラスを入れたような造りにしています。壁の一部に穴が開いているという設えにせず、壁の一部をガラスにすると行った考え方で窓を開けていくことで、生活空間の開放性はグッと上がります。何気ない工夫ですが、私は、生活空間の中における外部との繋がりや、視線の通り方を工夫することは、とても重要な操作だと考えています。土地の条件を読み込みながら、お客様の趣向を反映する上で私が最も大切にしていることの1つです。この住宅では、玄関から階段室を通して南側に広がる林檎畑に抜ける視線や、浴室を介して見渡すことが出来る洗面所からの景色、主寝室から雑木林に向けて広がる窓、リビングダイニングのコーナーに設えた大きな2つの窓から雑木林に抜ける視線がポイントになっています。室内のいくつかのポイントにおいて大きく外部に視線を抜きます。逆にその他の開口部においては少し絞り気味に開口部を造ります。そうすることで、空間に方向性が生まれ、視線が流れ、空間に動きが生まれます。視線のメリハリ、空間の動き、コストのバランスがとれることにもなります。
将来の可能性
車用に大きな屋根空間を用意しています。当然屋根だけを既製品のエクステリア商品で造ることも出来ます。そうすればコストも安く済みます。しかし今回は敢えて建物と一体的に屋根を用意しました。これはデザイン的な要因もさることながら、将来への備えでもあると考えています。こうすることで、この空間は将来気軽に増床が可能です。コスト的にも精神的にも気軽な増築が可能でしょう。今回の新築計画に関わるコストを全て生活空間に投資すればもっと大きな床面積を確保出来たことは間違いありません。しかし、結果的に将来に対する増築への準備となる部分を用意しておくことは、将来の生活にオプションを用意することになります。新築時に全てを固定化するのではなくバッファーのような部分を用意しておくことは生活に精神的な余裕を生みだすと思います。
お施主さまの情熱
この計画の設計期間は長く、途中で家族構成が変わるなど、いくつかのドラマがありました。そんななか、とにかくお施主様ご夫婦の熱意が冷めることなく計画を進めていくことが出来ました。私もその熱量に負けることなく、いくつものアイディア出しや提案をさせていただきました。振り返ればあっという間の設計期間です。建物は設計時間より長く存在します、時間の許す限り存分に検討することで建物に対する愛着が深まっていただければ設計者としてはこれ程うれしいことはありません。お二人の思い入れの詰まった土地で末永く生活していただきたいです。